梶岡俊幸展「黙視」

梶岡俊幸展「黙視」

 この度、マサヨシ・スズキ・ギャラリーでは梶岡俊幸(かじおかとしゆき)展を開催いたします。
 中部地区では初となる個展を開催する梶岡俊幸は1978年東京生まれ。京都造形芸術大学入学と共に京都に移り住み、大学在学中から公募展などに入選。
2005年同大学大学院修了時には、修了制作展で大学院長賞を受賞し、以降京都を拠点に各地で作品を発表し続け、2009年4月には東京・青山のスパイラルにて横8m90cm高さ5m10cmの過去最大の作品を発表しました。 巨大な和紙をキャンバスに描かれたその作品は一見、真っ黒い絵のようですがよく見ると膨大な量の鉛筆の線で埋め尽くされ、その上に墨が塗り重ねられています。作品は川面を描いており、 それも昼間の明るい川ではなく、夜の闇に同化した漆黒の川。21歳まで東京・隅田川の近くで育った梶岡は大学進学を契機に移り住んだ京都でも宇治川の近くで暮らし、夜の川辺で何時間も水面を凝視し、 対象をしっかり記憶してからアトリエに戻り、体全体で感じた感覚を呼び覚ますように作品を製作し続けています。時には1点を仕上げるのに1年間を費やす程の画面からは恐怖や不安を感じさせながらも、 同時に絶望という闇の奥から、わずかだがぼんやりと光る小さな希望を感じざるをえません。

 作家曰く、何も見えず静かな空間であるほどに、より自分の息遣いや心臓の鼓動を感じ、より個である自分の存在を強く感じる事ができ、また自分を取り巻く空間への感覚が鋭くなるのではないか。
「自己の再確認、世界のすべてと一体になる感覚」それはすべてを同化してしまう闇の中だけで感じられる。

 物や情報が溢れ、自分自身を見失いがちな現代で私達は人生にとって本当に大切なものを見失ってはいないだろうか。梶岡の作品からそんなメッセージを私は感じます。
 「現代」という時代の中で独自の表現を追求する梶岡俊幸の仕事を是非ご覧下さいませ。

2009年11月 鈴木正義