藤永覚耶120707

藤永覚耶 - Fujinaga Kakuya -

「foliage」

僕の制作は、モチーフをピントをぼかして写真に撮るところからはじまる。
写真の像を元に、布地にインクで均質な点を重ねてイメージを
描いてゆき、最後にそのイメージを溶かす。
写真に還元されたイメージ、とりわけボケた質感の映像は、僕に
リアリティのある感覚をもたらせてくれる。それは写真の再現的な
リアリティではなく、意味がぼけ、人や社会の価値観を拭い去った等価な
世界に立ち戻るような、真実味を持った感覚である。
 写真は、本来は人の外にある知覚を、カメラによってイメージに置き
換えてゆく。そこには個人の先入観がなく、すべてが等価な世界に感じ
られる。その、僕が感じるリアリティは、自身でイメージを描く際の点の
集合にも重なってゆく。カメラを通して置き換えられたイメージを、もう
一度自分の手を通して置き換えてゆく。
2009年より、壁面に設置する作品に加え、イメージが描かれた布を
宙吊りにし、空間と共に提示する作品を展開している。この展示形式は、
布のイメージを作品の後ろから通ってくる透過光で見せることになる。
作品は、展示環境での光や風といった様々な要素に影響を受ける。環境に
イメージを左右される作品は、作品の自立性という意味では弱くなるかも
しれない。しかし、空間の影響を受けることで、作品自体が空間を取り込み、
空間の中で強く訴える力を持つように感じる。環境がイメージに影響を
与え、そのイメージがまた空間の質を変える、というフィードバックの
ようなことだと思う。
近年よく扱うモチーフのひとつに森や植物がある。森は、葉や木々の
集まりでもって森と認識される。そこの境目は曖昧で、形を一定に保って
おらず、見る人の意識によって形は何者にも変わってゆく”揺らぎ”を
持っている。この"揺らぎ"は自分の作品にとって大事な要素である。
 個人を離れたような非日常で等価な世界と、日常を営む上で逃れることの
できない個人の価値観の世界。その双方の狭間で揺らぐイメージを、
切実に訴えかけるものとして表現することを目指している。
                            藤永 覚耶